デリーの無認可学校は法的にも実際的にもその正当性を獲得してきた

●Compare 2012年1月

 インドでは現在、私立の無認可学校が各地で出現し、貧困層の間で人気を呼んでいる。一方で、無認可学校の正当性はどのように担保されているのか。本研究では、インドの無認可学校が法的にも、また実際として学校関係者の間からもその正当性を獲得しているのかを、デリーの無認可学校を事例に検証している。 まず法的正当性について、筆者は無認可学校の存続がデリー高裁と最高裁で争われた裁判に着目した。デリー高裁では、社会活動団体が、無認可学校がデリーで定められている基準(以下DSEAR)を満たしていないとして認可学校になるか閉校するかすべきであると訴え、デリー高裁はその訴えを認めた。しかしそれに反発した無認可学校側は、公立学校の廃頽ぶり、無認可学校の手ごろさ、無認可学校の保護者や教員側に不満がないことに加え、DSEARの基準も満たしていることなどを理由に、高裁の決定の取り消しを最高裁に求めた。その結果、最高裁は、無認可学校がデリーの法的基準の則ったものであると判断し、無認可学校側の逆転勝訴となった。 一方で実際的な正当性について、筆者は無認可学校の①経営者、②教員、③保護者に質問紙調査やインタビューを行い、無認可学校が学校関係者に利益をもたらしているのかどうかを検証した。その結果、まず経営者については、無認可学校を経営することが、将来の選挙の出馬のためであることや、認可学校の運営に貢献することを挙げた。また教員は無認可学校において、概ね教員という職業そのものにやり甲斐を得ていた。さらに保護者については、無認可学校が英語を教授言語にしていることや、教員が子ども一人一人に注意を払っていることなどが、退廃している公立学校に通わせるよりもよいと考えていた。

 以上の検証から、デリーにおける無認可学校が法的にもまた実際的にもその正当性を獲得してきたことを明らかとした。

出典:Ohara, Yuki. “Examining the Legitimacy of Unrecognised Low-fee Private Schools in India: Comparing Different Perspectives.” Compare, Vol. 42, No.1, 2012, pp. 69-90.

参考文献:小原優貴『インドの無認可学校研究―公教育を支える「影の制度」』東信堂、2014年。

(報告者 京都大学大学院教育学研究科 博士後期課程 渡辺雅幸)