学生については普通高校卒業者対象に年2回採用が行われている。1年で8000〜10000人がエントリーするが、受験に来る者は約2000人、合格する者が約250人〜300人である。学費は1年あたりSR42,000、給与は1年あたりSR18,000となっており、学費、給与は全て企業、人材開発基金が負担している。HIPFキャンパス内に寮を提供されており、各種保険も完備されている。卒業者には技術短大の卒業資格が付与され、卒業後最低2年間は雇用企業への就業義務がある。
カリキュラムと得られる資格については、職業訓練庁が作成するNOSS (National Occupational Skills Standard)に従っている。これは各種職業従事者としての資格と、それぞれに対応した最低限の技術・知識を満たすカリキュラムを設定してあり、石油化学だけでなく自動車や機械など各種工業についても作成されている。石油化学分野におけるNOSSは、上位から順に[統括責任者][生産技術者][シフト監督者][プラスチック工業機械技師][技師補助者]となっており、各段階に適応したカリキュラムが設定されているが、HIPFでは[プラスチック工業機械技師] の資格が付与される。カリキュラムとしてはNOSSにおける[生産技術者]を満たすものを提供しているが、実際に付与される資格は[プラスチック工業機械技師i]の資格にとどめているのは上級職である[生産技術者]では雇用される人数がすぐに飽和してしまうためである。このNOSSを満たした上でSPDCが日本の技術を取り入れ、訓練生の達成目標の作成、カリキュラム基本設計、授業科目作成、機種・台数の決定などを東京で行っている。ここで作成された達成目標などに関してはサウジアラビアの設立準備委員会に提出し、承認を得なければならない。それに準拠した授業計画、授業教材、試験問題などを現地のスタッフが作成し、現地において日本人専門家によるアジア人への指導も行っている。
実際のカリキュラム編成は表1のようになっている。1学期は半年に相当し、計2年の就学期間となる。第1学期では735単位中525単位が英語に割り振られており、語学トレーニングに重点が置かれている。第2学期になると英語の割合が低下し、基礎技術科目と実技科目の割合が増えている。第3学期になると基礎科目と基礎技術科目の時間がなくなり、実技科目がほとんどを占めている。第4学期になると実技科目に加えてOJT(on the job training)といったより実践的なカリキュラム編成がなされている。数学・物理・化学・コンピューターなどの基礎科目は職業訓練庁の支援によりサウジアラビア側から提供されているが、それ以外の基礎技術科目(各種工業概論、石油化学、プラスチックス入門、安全衛生など)実技科目(実技実習(射出、インフレ、ブロー、パイプ、シート、などの各種形成))、OJT(雇用企業での工場実習)はSPDCによる技術支援として提供されている。
以上に、サウジアラビアにおけるSPDCによるHIPFプロジェクトについて簡単に見てきた。現地機関と密接に結び付いた運営および実践的なカリキュラムからも、日本企業の人材育成機関としての役割に対する高い関心が見て取れる。途上国においては日本の技術力・人材育成能力は一目置かれるものであり、このような事例は国内に縛られない新たな教育活動の可能性を秘めている。日本が提供する人材育成が当該地域においてどのような影響を与えうるのか、今後の展開が注目される。
[註] i NOSSにおけるプラスチック工業機械技師は、シフト監督者の監督のもと、日々の機械の操作に責任を負う立場であり、仕事の内容については機械に材料を投入したり、安全・着実に機械を動かしたり、作動する機会に対して注意を払うことなどが挙げられる。
参考文献・ホームページ Higher Institute for Plastics Fabrication(HIPF Project) 〜プラスチックス成形・加工に関する職業訓練センター設立・運営支援プロジェクト サウディアラビア王国リヤード市〜,サウディ石油化学(株) サウディの技術教育・職業訓練の現状‐2001年度版GOTEVOT(当時)統計資料より−,JICA,2004年。 Higher Institute for Plastics Fabricationパンフレット

